ラベル #動物機能組織学研究室 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル #動物機能組織学研究室 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2026年10月9日金曜日

【3年次・動物学実習】組織を厚さ3 μmに 組織標本作製からRNA抽出までを体験

 

7月21日(火)、22日(水)の2日間、奈良英利教授(動物機能組織学)の担当で「動物学実習〜組織学〜」が実施されました。

今回の実習では、組織標本の作製からRNA抽出まで、実際に手を動かしながら基礎技術を体験しました。 

1日目の組織標本作製、2日目のRNA抽出の様子と、参加した学生の声をお届けします。 

 


1日目 組織標本作製実習

動物組織の標本作製は「切り出し→固定→脱水→包埋→薄切→染色」 という手順で行われます。

今回の実習では、組織を包埋してあるパラフィン(ロウのような物質)のブロックから、厚さ3 μmに切り出しプレパラートに貼り付ける実験と、既に貼り付けてある組織片に染色液で色をつける染色実験が行われました。



ニホンジカの骨格筋

最初にパラフィンを溶かす通称「脱パラ」という作業を行います。

キシレン、アルコールと順番に漬けていくことで、徐々にパラフィンが溶け、組織が水に馴染みやすくなります。染色液は水溶性ですので、この過程をいい加減にすると、染色液が組織の中に入っていきません。

 

「脱パラ」が終わったら染色です。

染色実験では、厚さ3μmに薄切されたニホンジカの筋肉組織が、あらかじめプレパラートに貼り付けてある状態からスタートしました。これはSAの大村 優翔くん(4年生)が準備してくれました。 

奈良研のスーパーエース
大村くんの日常の実験風景


今回は最も一般的な ヘマトキシリン-エオジン(H-E)染色を行いました。ヘマトキシリンで核を染色し、エオジンで細胞質を染めます。

しかし、それで終わりではありません。その後、脱水を行い、「透徹」という作業をします。これにより組織がよりクリアにはっきりと見えるようになります。もし、脱水がうまく行っていなければ透徹用のキシレンが白く濁り、最初からやり直しです。

 

そして最後に封入です。

ここまで頑張って作ったプレパラートを保護するためにカバーガラスを掛けて終了です。皆さん、せっかく染色したプレパラートですので、慎重に封入をしてくれました。観察は翌日です。

染色したプレパラートにカバーガラスをかけて封入する作業

田口育くん(左)、真剣そのもの
福田萌夏さん(右)の恐る恐るといった雰囲気
いいですねぇ〜 

はい、終了です
最初の無色透明のものと比べてみてください

 

染色では待ち時間が結構生じます。その間、同じ班の人に染色の作業は任せて「薄切」の体験です。

ミクロトームを軽やかに?
扱う及川美紀さんと見守る佐藤和歩さん

ミクロトームは数μm単位にスライスする機器
(いわば、超高精度なカンナ)

薄切なんて朝飯前の大村くん(右)に見られて(見つめられて)、
緊張気味に薄切を行う田口晃那さん(左から2番目)


この過程は完全手作業であり、いわゆる技術がものを言います。今どきのタッチパネルで自動的になどという甘い世界ではありません。みなさん四苦八苦しながらプレパラートを作ってくれました。

なお今日の染色実験のために大村くんはこれを40枚ほど準備してくれました。感謝です。



2日目 RNA抽出実習

昨今、なんでもキット化され、簡単な英語さえ読めれば(さらに日本語に訳してあれば)、動物の組織からRNAを取り出す作業は比較的簡単です(「如何に昨今のキットが優れているか」という意味)。ですが、それでは授業になりません。

 

今回はTrizolという試薬を使い、全てマニュアルで作業することに挑戦しました。

正確なピペット操作が求められ、さらに安全性を考慮に入れる必要があります。そうです、Trizolは劇物指定を受けた試薬です(さらに高価!)。この試薬をドバッと使えるのが少人数で実施する動物学実習の醍醐味です。皆が安全に実験できるよう厳重に注意を促した上、ゴム手袋を支給しました。

 

また今回は最後にRNAの純度を測定します。

RNA抽出は如何にピペットを上手に使えるかも重要になります。その結果、最終的に得られたものの純度が変わってきます。RNAの場合、吸光度(どれくらい光を吸収したか)の比率260/280が2.0前後なら純度は合格です。

次の行程を予習する?三宅穂波さん(手前)

通常キットを使ってRNA抽出を行っている
鈴木麻弥先生(右、宮城県食肉衛生検査所 所属)も
Trizol法を習得するために特別参加

 
レジュメを見ながら丁寧に作業をする橋本航くん


細かい過程は割愛しますが、最終的にみなさん吸光度260/280が1.9〜2.0の間となり、高純度のRNAを抽出することができました。

なお余談ですが、吸光度260/280の値が最も2.0に近かったのは、特別参加の鈴木麻弥先生でした。流石!



参加した学生の感想


青野夢生さん

一番難しかったのはミクロトームを使った切り出し(薄切)。先輩にコツを教えてもらっても中々うまく行かず、早くすると丸まってしまうし、ゆっくり過ぎると途中で刃が止まってしまうので、そのちょうど良い塩梅を見つけるのが難しかった。最終的にプレパラートに貼り付けられる1枚ができたのでよかった。

 

菅原実咲さん

組織標本の薄切は綺麗に薄く切るのは難しかったけど、うまく切れたので嬉しかった。RNAの抽出は純度が低く出たので(タンパク質やTrizol中のフェノールの混入が原因で起こる)、しっかり作業できるようになりたいと思った。



細胞生物学実習も実施!

3年次の動物学実習は、同じ日程で細胞生物学実習も行いました。ある物質が細胞や組織のどこに存在しているのかを可視化するために使われる「間接蛍光抗体法」を体験しました。

ゾウリムシの大核と小核が発光
 

野外実習も実施! 

7月30日には石巻市内の2カ所の森林での野外実習を実施しました。シカの生息密度の違いが森林に与える影響について理解することが目的です。

昨年度の様子 ↓↓↓


金華山のニホンジカ(撮影:高槻成紀氏)



生物科学科をもっと知る

生物科学科では、生き物を観察するだけでなく、組織・細胞・遺伝子などさまざまなレベルから生命現象を学びます。



【関連ブログ記事】

#実験・実習 #動物・植物コース 

2026年10月2日金曜日

専修大学北上高校の1年生約300名が「石巻専修大学見学会」に参加 新たな興味を見つける

ハチミツの試食は大人気!
 

9月17日(木)、専修大学北上高校の1年生約300名が「大学見学会」のため、石巻専修大学を訪れました。

生徒の皆さんは、学生食堂での昼食体験や、理工学部・経営学部・人間学部の各ブースを見学。さらに、大学教員による模擬授業にも参加しました。

大学ではどのようなことを学ぶのか、どのような研究をしているのか、高校とは違う「大学での学び」を、一足早く体験する機会となりました。

理工学部では、実際の研究・教育で扱っている標本などを紹介するブースを用意しました。

生物科学科 ミズクラゲ、ベントス、魚類標本 / 細胞、ミツバチ、ゾウリムシ、樹木 / 電池、固体酸、ソフトマター

創造工学科 AI、コンピュータウィルス、ロボコン、水中ドローン、3D地形模型、自動車

 

生徒の皆さんは、興味を持ったブースで足を止め、学生や教員からの説明を聞いたり、実物を観察したりしながら、大学での学びに触れました。


4年生や大学院生が
体験談を交えながら解説


ブース見学に続いて、模擬授業が行われました。

今回は、生物科学科からは2名の教員が講義を担当。大学ならではの生物科学の学びの広さを体験してもらいました。 

  • 渡邊 一仁「海水温上昇で変わる海と漁業・養殖」
  • 武藤 清明「微生物がつくる地球、微生物がつくる未来」

 

今回の大学見学会では、大学生活や授業だけではなく、その先の進路についてもイメージしてもらえるよう、本学を卒業した先輩も紹介しました。 

 

卒業生の紹介 風間玲緒奈さん

専修大学北上高校出身で、石巻専修大学を卒業。卒業時には、成績優秀者に授与される川島記念学術賞を受賞。その後、地元に戻り、北上市役所に就職しました。

動物機能組織学研究室でニホンジカを研究 
 
大学祭では団子屋さんを出店

大学案内にも協力してくれました

北上からのサポートバスを利用
(本学には 学生寮 もあります)


1年生の段階では、まだ進路が決まっていない人も多いと思います。「生物が好き」「海が好き」「地域産業について学びたい」ちょっとした興味が、大学での専門的な学びにつながっていきます。

今回の大学見学会が、高校生の皆さんにとって新しい興味を見つけるきっかけになったとしたら嬉しく思います。

 


【リンク】

  • 専修大学北上高校 岩手県北上市、普通科・グローカルビジネス科・メカニックエンジニアリング科

 

生物科学科をもっと知る

 

2026年3月3日火曜日

修士8名が堂々発表 修士論文発表会を開催(生命科学専攻6名・物質工学専攻2名)

 

大学院理工学研究科の「修士論文発表会」が行われ、生命科学専攻6名・物質工学専攻2名の計8名が、これまで積み重ねてきた研究成果を堂々と発表しました。

学部の卒業研究発表会とは異なり、修士は発表20分、質疑応答20分というスタイル。

鋭い質問にも的確に答える姿があり、研究に打ち込んだ2年間での大きな成長が感じられました。

 

 

生命科学専攻

2月12日(木)、5301教室

  • 大見川 遥(海洋ベントス学研究室)
    海産等脚類の球体化による捕食回避機能および乾燥耐性機能の評価 
  • 大山 雄太郎(海洋ベントス学研究室)
    金華山島のニホンザルにおける海藻類の採食生態:ニホンザルの海岸利用頻度と海藻類の利用可能性の関係から探る
  • 小田 晴翔(海洋ベントス学研究室)
    クロベンケイガニにおける性的二型の進化要因の検討 -社会行動からのアプローチ-

  • 畠山 紘一(海洋浮遊生物学研究室)
    宮城県北部沿岸域における下痢性貝毒原因藻Dinophysis属の消長要因-特に繊毛虫Mesodiniumとの量的関係について-
  • 梁 翰宸(動物機能組織学研究室)
    ニホンジカ幼角由来マクロファージ活性化候補成分の探索
  • 小林 真緒(海洋ベントス学研究室)
    国内におけるHeteromastus属多毛類の分類学的検討 

  


物質工学専攻

2月9日(月)、2101教室

  • 佐藤 愛莉(触媒化学研究室)
    バイオエタノール水蒸気改質反応触媒のための高機能担体の開発 
  • 久米 惟道(ロボット工学研究室)
    小型水中ドローンの姿勢制御に関する研究 



近年、大学院進学者数は増加傾向にあり、今回の8名のうち2名は博士課程に進学し、さらに研究を深めていきます。

先輩の姿が後輩への良い刺激となり、「挑戦が次の挑戦を生む」好循環が生まれています。



【大学ホームページ関連記事】

 

【関連ブログ記事】 #大学院 

#触媒化学研究室

 

2025年11月18日火曜日

生理学合同セミナーを開催中! 菌類、動物、植物の視点で、生物科学の基礎から応用をつなぐ

 

今年度の後期より研究対象を超えて、生理学的研究を行っている3つの研究室で合同セミナーを始めました。

 

参加教員は宮嵜先生、中川先生、そして私、奈良の3名です。

ヒゲカビの研究でのこれまでの実績はもちろん、講義で「植物生理学」「菌類学」を担当されている宮嵜先生にはこの会の代表になって頂いております。

それぞれ菌類、植物、動物と研究対象は異なりますが、生物科学の基礎から応用をつなぐ領域を研究している同志でもあります。

一歩踏み込んだ内容を熱心に聞いています

 

1回目、2回目は奈良が担当し、今後、論文を読んでいくために必要となる哺乳類の免疫機構の基本を「免疫記憶」を中心に解説しました。

特に2回目は今年のノーベル生理学・医学賞の発表の3日後ということもあり、受賞した研究内容である「制御性T細胞」の働きなどについて(当然、奈良の説明できるレベルで、です)話をしました。

 

3回目の宮嵜先生は「菌類を知るところから始めよう!」というタイトルで、菌類に特有の細胞構造や生活環、人間生活との関わりなど広く解説してくれました。

 

4回目の中川先生は「モデル生物とは モデル植物シロイヌナズナの紹介」と言うタイトルで何故シロイヌナズナが植物のモデル生物として使われているのか、など熱く語ってくれました。

最初は座って話をする中川先生

終了直前には前に出て語る

聴衆からの質問に対話形式でやり取りできるのも授業と違った良い点かと思います。時には半分くらい質疑応答のやり取りになることも。

 

参加者のコメント 
加藤乃愛さん:3年、微生物資源学研究室(武藤清明助教)

普段の講義と比べ一歩踏み込んだ専門的な内容が多いですが、分からない前提で話を進めてくださるので難しい内容でも理解できます。

ノーベル生理学・医学賞の制御性T細胞とは何か、モデル植物についてなどを解説して頂きましたが、テレビの教育番組のようなので気軽に参加できます。

様々な分野に興味がある人には非常に楽しく、貴重な時間になるかと思います。

 

今後、教員がこれまでに出した論文の内容紹介などもしていきます。

それぞれの分野で担当者が「なぜ?」と思い、それをどのように解決して行ったのか、私、奈良も探究学習を楽しんでいます。

静かに耳を傾ける宮嵜先生

参加は自由です。

興味ある学生の皆さんは、時間があれば木曜日の3限に2212教室に足を運んでみて下さい。

 
 
【リンク】

 

【関連ブログ記事】 

#学生の声 #動物・植物コース #微生物・生命分子コース 

#動物機能組織学研究室 #植物発生遺伝学研究室 #菌類発生生理学研究室

         

2025年2月13日木曜日

卒業研究発表会(動物コース) 和やかな雰囲気で、学年関係なく自由に議論

 

2/5(水)に、卒業研究発表会の第二日目が開催されました。

この日は動物コースの発表会です。前日の晩から雪の降る、肌寒い天気でしたが、学生・教職員を合わせて約90名の参加者がありました。


動物コースに所属する4年生は21名。来年度からは動物・植物コースに体制が変わるため、動物コースとして最後の学生です。学生たちは、それぞれの研究室で、この日に合わせて一生懸命準備をしてきました。

 

 

最初に学科主任の栁先生から激励の言葉をいただきました。「1年間の成果を出し切ってください!」

 

発表時間は12分です。学生たちは緊張した面持ちでしたが、発表が始まると実に落ち着いた様子でスライドを操作していきます。声のスピードもちょうどいい感じ。原稿をしっかり作り、何度も練習したことが良くわかりました。






卒業研究発表タイトル(一部)


分子発生学研究室(阿部知研)

  • ⼤学敷地内からの細胞性粘菌の単離と種同定
  • 細胞性粘菌無菌培養株の液体栄養培地の組成の検討
  • 細胞性粘菌の低酸素下培養条件:培養器の材質と形状の影響
  • 低酸素下で⻑期間培養された細胞性粘菌GFP形質転換体の観察
  • 毒性のある化学物質の増殖期粘菌細胞への影響
  • 野⽣⼩動物の糞中からの細胞性粘菌の単離の試み
  • ⼟壌⽣物体表からの細胞性粘菌単離の試み

 

動物機能組織学研究室(奈良研)

  • シカ幼角抽出液の培養筋細胞に及ぼす影響
  • タヌキの⻭⽛マイクロウェア形状分析 -外的要因と内的要因に注⽬して-
  • ウーパールーパーの変態における甲状腺ホルモンの役割
  • 培養筋芽細胞由来のマイオカインの脂肪細胞に与える影響


細胞生物学研究室(栁研)

  • シアノバクテリアを使⽤したゾウリムシの新しい培養法の検討
  • ゾウリムシの細胞後端にある動かない繊⽑の役割
  • ゾウリムシ野外株における⼩核などの性質の調査

 

動物生態学研究室(辻研)

  • ⽯巻市におけるタヌキの⾷性と採⾷戦略について
  • タヌキの⻭⽛マイクロウェア形状分析-外的要因と内的要因に注⽬して
  • 環境条件の年変化に対する⾦華⼭島のヒメネズミの応答
  • ニホンジカ (Cervus nippon) の⾏動が⾞輛との接触事故に与える影響
  • タヌキの死体を利⽤する動物相とその季節変化

 

 

 

発表が終わると、質疑応答の時間が3分ほどあります(指導教員はハラハラしながら聞いています!)。

ここで手が上がるということは、「発表の内容が聴衆に伝わった」ということであり「興味を持ってもらえた」ということでもあります。質問に窮する場面も時折ありましたが、みなさんはおおむねきちんと答えられていたようです。

 

所属研究室がきまっている動物・植物コースの3年生には、会場係としてお手伝いしてもらいました(朝早くからありがとうございます)。

彼ら彼女らにとって、今日の発表会は1年後の自分の姿。発表を見学して、先輩のプレゼンの方法や研究のアプローチを学んでください。早め早めの準備が大切ですよ。




会場には1-2年生の姿もちらほら。

気になる研究室の見学にきたり、サークルの先輩を応援に来たり、理由はいろいろ。彼らにとって研究はまだ未来の話かもしれませんが、学科の研究室や研究したい生き物のイメージを膨らませるきっかけになったでしょうか。積極的に手を挙げて質問する学生もおり、将来が楽しみです。



 

発表の終わった同級生からも質問がありました。全体的に、和やかな雰囲気で活発な議論が行われました。上下関係関係なしに自由に議論できるのが、科学の世界の素晴らしいところです。 



学生からの質問の後は、コースの先生から質問やコメントがありました。

発表者は真剣に耳を傾けていました。会場には植物コースや海洋生物コースの先生方も来てくださり、鋭い質問をなげかけてくださいました。分野の違う先生からの指摘から、思わぬ気づきが得られることもあります。





 
発表会が終わってから、全員で記念撮影をしました。まじめな写真の後はスマイルポーズ。「お疲れさまでした!」
 

2/22(土)にはポスター発表会が控えています。こちらも、準備をすすめてください!

 

 

【関連ブログ記事】 #卒業研究

 

 

2025年2月6日木曜日

「被食者・捕食者の数理モデル」って? 大学院生6名によるセミナーを実施


現在、大学院・生命科学専攻の1年生は6名(定員は5名)。海洋ベントス学研究室が4名、海洋浮遊生物学研究室が1名、そして動物機能組織学研究室が1名です。

大学院では研究がメインですが、学部同様、単位を取る必要があります。今回は、6名全員が参加している数学系の授業の様子を紹介します。

  • 授業の内容
  • 被食者・捕食者モデルの解説
  • 参加学生の声

 

 

 

 

数理生態学 「生物」×「数学」の世界

生態学は生物と環境の関係について調べる学問分野です。数理生態学は、生態現象を数理モデルやデータ解析などの数理的手法によって解明しようとするものです。

 

テキストは『ベントスの多様性に学ぶ海岸動物の生態学入門』(日本ベントス学会編、海文社)にしました。ベントス(底生生物)に光を当てた標準的な生態学の教科書です。

また『理論生物学の基礎』(関村利朗・山村則夫 共編、海游舎)の内容もあとで追加しました。授業内容を相談して調整できるのは少人数の良いところです。

『ベントス~』は学部の「海洋生態学」の授業の教科書として使われているのですが、数理的な記述もあります。「せっかくなら個体群動態の数理的な側面を本格的に取り組んでみようか」ということで採用しました。学部までに習う微分積分の知識があれば、十分読むことができます。

 

 

輪読形式で実施、内容は数理モデルの基礎

学生が先生役になって、読み込んできた内容を発表します。準備はもちろん大変ですが、ただ授業を聞くよりも身になります。

さすが大学院生、みんな良く準備をして
良い発表をしてくれました
 

具体的には、次のような内容について学びました。 ちゃんと理解できているかを確認しながら、じっくりと進めました。

  • 個体数が多いほど増えやすい?
    (指数成長モデル)
  • 密度効果・環境収容力を考慮するとどうなるか?
    (ロジスティック成長モデル)
  • カオス的な現象はどうして起こるのか?
    (離散ロジスティック成長モデル)
  • 漁獲によって魚は絶滅するか?
    (漁獲付き指数成長モデル)
  • 世界人口はどうなるか?
    (べき乗指数成長モデル)
  • 資源をめぐって競争する2種はどうなるか?
    (種間競争モデル)
  • 食う食われるの関係にある2種はどうなるか?
    (被食者・捕食者モデル)





「被食者・捕食者モデル」をちょっと紹介

個体群動態(時間とともに個体数はどう変化するか)は、学部で学ぶ「微分方程式」で記述されます。下の写真内の式には、捕食者が多いほど被食者が減りやすくなることなどが組み込まれています。

被食者・捕食者モデル

時刻 $t$ における被食者(prey)の個体数を $N$ 、捕食者(predator)の個体数を $P$ とします。分かりやすいように、被食者をサカナ、捕食者をサメとして話を進めてみましょう。


サカナの変化は「指数増加 & 食べられる影響」
$\dfrac{dN}{dt} = rN - aNP$ 

 

サカナの指数成長

敵であるサメがいない場合、つまり $P=0$ のとき、方程式は $dN/dt = rN$ となります。これはサカナが指数成長することを意味しています($r$ は正の比例定数で、自然増加率)。ここでは単純に、サカナとサメの2種しかいない世界を考えています。

※ ページ下部に、$dN/dt = rN$ の解き方の「おまけ」あり

 

$dN/dt$ つまり $N$ の微分はサカナの増加速度(増えやすさ)を表します。微分記号 $dN/dt$ は難しく考えすぎず、速度の単位 km/h と同じようなものと考えて良いでしょう。km/h は1時間で何 km進むかを意味するのと同様に、$dN/dt$ は一定の時間で個体数がどのくらい増えるか?と読めます。

よって、$dN/dt = rN$ という式は、サカナ $N$ が多いほど $dN/dt$ が大きくなり、サカナが増えやすくなることを意味しています。数が少ないときはゆっくり増えて、多くなってくるとどんどん増える速度が増す、まさに指数成長ですね。

 

食べられる影響

後ろの $-aNP$ の項は、サカナが食べられてしまう速度を表しています($a$ は定数)。マイナスはサカナの減少に対応します。サカナ $N$ が多くなっても、サメ $P$ が多くなっても、 $aNP$ は大きくなります。

サメが多くなれば、もちろんサカナは減りやすくなります。逆に、サカナが多くなっても、サメと出会う可能性が高くなって、食べられやすくなってしまいます。食べられる影響が式に組み込まれている訳ですね。

 

 

サメの変化は「指数減少 & 食べる影響」
$\dfrac{dP}{dt}= f\,aNP - qP$

 

サメの指数減少

サメの変化の仕方も同様に考えてみましょう。

餌であるサカナがいない場合、つまり $N=0$ のとき、方程式は $dP/dt = -qP$ となります。これはサメが指数減少することを意味しています($q$ は正の定数)。

サメ $P$ が多いときは、サメの変化 $dP/dt$ がマイナスの方向に大きく、エサとなるサカナの奪い合いでサメが減りやすくなることを表しています。

 

食べる影響

前の $f\,aNP$  の項は、サカナが食べられてしまう速度 $aNP$ に係数 $f$ がかけてある形です。つまり、サカナをたくさん食べるほどサメが増えやすくなることを意味しています。食べる影響が式に入っている訳です。



いかがでしたでしょうか。数式の持つ意味(雰囲気)は伝わったでしょうか。

このように、サカナとサメ自身の変化にお互いの影響を加えて、増え方・減り方を式にしたもの(連立微分方程式)が「被食者・捕食者モデル」です。

$\dfrac{dN}{dt} = rN - aNP$

 $\dfrac{dP}{dt}= f\,aNP - qP$

指数成長モデルのときのように明示的な解を得ることはできませんが、 ふたつの式から、被食者と捕食者がどういったときに増えて、どういったときに減るのかを調べることができます。

このモデルを詳しく分析することで、被食者と捕食者が交互に増えたり減ったりを繰り返す「共振動」を起こすことが再現されます。

 

今回紹介したのは、被食者が指数増加、捕食者が指数減少するという仮定をもとにしていました。

より現実の状況に合わせて、その仮定をS字曲線を描くロジスティック成長に変更してみたり、お互いの影響具合を変化させてみたりすることで、より深く生態現象を理解することにつながります。海洋生物だけではなく、動物や植物にも応用可能です。他の種も考えて、2種、3種…と考えたり、どんどん数理モデルが発展していきます。

 

学生の中には、自身の研究対象に今回のモデルを応用して、エクセルを使ってシミュレーション&考察したものを自主的に提出してくれた学生もいました(渦鞭毛藻 Dinophysis と繊毛虫 Mesodinium の関係に応用)。

 

 

参加者の声(一部)

  • 複雑な事象も数理モデル化し予測できるということに、数学の奥深さと底知れなさを感じた。
    数学のみでは最適なモデルを組み立てるのは難しい。フィールドワークなどを通して自分で体感するのも大切だと思うので、適材適所な使い方をするのが最も良いのではないか。
    対応力の高い研究者を目指したいが、そのためにはまだまだ数学力が足りないと大いに実感した。今後も定期的に数学に関わっていきたい。
  • 私の中には数学に対する苦手意識が根強く残ってきた。小中学生の頃から「この問題にはこの公式を使いなさい」と言われてきて、数学の問題を解くことは単なる作業でしかなく、面白みに欠けていた。
    そんな中、大学で渡辺先生の授業を取ってから、数学が覚えるだけの作業的なものであるといった考えが変わったのは記憶に新しい。
    自分は数学が苦手だから小難しい数式は扱えないとずっと思ってきたが、そんな自分とはお別れができた。これからも、自分で考え理解する楽しさを胸に、研究活動を進めていきたい。 
  • 授業内での発表やその準備を通して、自分の考えを論理的に整理し、明確に伝える力が鍛えられたと感じている(まだ全然たりないが)。特に、専門外の人に分かりやすく説明することの重要性を改めて実感した。
    この授業を通して得た知識や経験を、今後の研究に積極的に活かしていきたい。



おわりに

学部には現在、1年次に基礎数学・微分積分・線形代数、2年次に応用数学・解析学という数学系の授業がありますが、ただ学んで終わりではもったいありません。数学は与えられた問題を解くだけのものではなく、新たな問題を見つけ、現実の問題を解決するのに役立ちます。

生物科学科および大学院生命科学専攻では、以上のように数理的な視点で生物を研究することもあれば、化学的・物理的な視点で見ることもあります。高校ではバラバラだった科目が意外な形でつながることも多いです(そこが面白い!)。

大学・大学院だから学べる「学問と学問のつながり」を、ぜひ学んでみませんか? 意欲的な学生の登場を期待しています。

 

 

生物科学科をもっと知る 



【関連ブログ記事】

 #大学院 #授業紹介 #数理生物学研究室



おまけ 指数成長モデル $\dfrac{dN}{dt} = rN$ の解き方(簡略版)
① 変数分離 $\dfrac{1}{N}\,dN = r\,dt$  $N$ と $t$ を分ける($r$ は定数)
② 両辺積分 $\displaystyle \int \dfrac{1}{N}\,dN = \int r\,dt$
③ 計算   $\log N=rt+c$  両辺の積分定数をひとつの $c$ に
④ 式変形  $N=e^{rt+c}=C\,e^{rt}$  $C=e^c$ とおいた
⑤ $t=0$ とすると,$C=N_0$(時刻 $0$ での個体数)
⑦ よって,解は $N=N_0\,e^{rt}$(指数成長)
詳しくは学部2年次前期の応用数学(数理モデル入門)で学習します。