共創研究センターの特別研究員の小林元樹と申します。
これまで、海底に生息する環形動物(ゴカイやミミズの仲間)の進化や分類、潮間帯のカニ類の遺伝的集団構造(地域ごとの集団の遺伝的な特性)といった「生物の多様性がどのように形成され、維持されているか」について研究してきました。
現在は阿部博和准教授と共同で、環境研究総合推進費のプロジェクト「海産環形動物絶滅危惧種の特定のための網羅的DNAバーコーディング:希少種の探索,新種記載と分類の整理,および分布情報の集積の促進」を進めています。
平行して、科学研究費助成事業若手研究のプロジェクト「大規模な解析による深海性環形動物の生息水深と遺伝的多様性の関連の解明」にも取り組んでいます。
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#海洋生物・環境コース
研究を始めたきっかけ
東北大学農学部在学中に女川湾で底生生物調査をした際に、環形動物の仲間が大量に採集されました。
それまで環形動物をじっくりと見たことはありませんでしたが、卒業研究を進めるうちに、沿岸ですぐに採集できる環形動物でさえ同定(個体がどの種であるかを判断する作業)することが難しいことや、まだ名前がついていない種(未記載種といいます。新種は新しく名前がついた種のことです。つまり、名前がついていない種を見つけただけでは新種とは言わず、論文で発表して名前をつけて初めて新種となります)が非常に多いことを知りました。
そして、環形動物の多様性がどのように生まれたのかを明らかにしたいと思い研究を始めました。
研究の簡単な内容
国内外の潮間帯から深海まで様々な環境から環形動物を集めてきて、形態観察や遺伝子情報を取得して、どのような特徴を持った種がどこにいるのか、どのように進化してきたかを明らかにします。
沿岸(利尻島)での採集の様子 |
スコップで海底の砂泥を掘り返し、ふるいにかけて残渣から生物を拾い出します。海水浴場など身近な環境にも環形動物が住んでいます。
利尻島の調査で見つかったボウシイソタマシキゴカイ Abarenicola claparedi oceanica の生体写真 |
“ゴカイ”というと足が多い種類が有名かと思いますが、発達した足を持たない仲間も多くいます。ゴカイの仲間を肉眼で見ると、苦手意識を感じる方も多いかもしれませんが、顕微鏡を通してじっくり見ると、形態の多様さや透き通る体の美しさが魅力的です!
ビームトロールと呼ばれる、深海の底生生物を採集するときに使う大きな網 |
深海の環形動物を集めるときは研究船に何日も乗船して調査を行います。これまで、東北沖を中心に、アラスカ沖やチリ沖の航海にも参加しています。先月参加した東北沖の超深海(6,500m以深)調査については近日中にブログで報告します。
これまで、日本語では、環形動物の最近の系統学的研究を紹介した論文や、利尻に住む環形動物に関する論文を出版していますので、よろしければ御覧ください(無料で読めます)。
- 小林元樹.環形動物門の高次系統に関する概説. Edaphologia, 109, 9-17, 2012
- 小林元樹,阿部博和,冨岡森理,伊藤萌,小島茂明.利尻島の海産環形動物. 利尻研究,38, 29-41, 2019
- 小林元樹,阿部博和,伊藤萌,冨岡森理,小島茂明.タマシキゴカイ科環形動物2種の利尻島初記録と日本における本科の過去の記録について. 利尻研究,37, 95-100, 2018
2022年に出版した論文の紹介
今年は主著論文が2報出版されました。
Travisiidae という科の1種についてミトコンドリア遺伝子のほぼ全長配列を決定し、その特徴と系統解析の結果を報告しました(Kobayashi et al. 2022a)。
元々は Travisiidae の系統的位置を決めるために実験を行ったのですが、驚くことにCOI遺伝子がグループIIイントロンと呼ばれる種類のイントロンを持つことが分かりました。通常、後生動物のミトコンドリア遺伝子はイントロンを持ちませんが、これまで少なくとも7種からグループIIイントロンが報告されていました。
今回、ミトゲノムを決定した1種を合わせて6種のミトコンドリア遺伝子からグループIIイントロンが見つかり、動物のミトゲノムにおけるループIIイントロンの報告例を大きく更新しました。さらに、その後イトゴカイ科のCOI遺伝子からもイントロンが見つかりました(Kobayashi et al. 2022b)。
環形動物では、ミトコンドリア遺伝子のイントロンは、これまで思われていたより頻繁に挿入・欠失されているのかもしれません。
ミトコンドリアにおけるイントロンの意義はよく分かっていませんが、環形動物はその役割や挿入・欠失の進化的な背景を検証する良い材料になると考えられます。
Travisia sanrikuensis の標本写真 |
Travisiidae の仲間はいわゆるゴカイのような発達した足を持たず、イモムシのような形をしています。写真で伝わらないのが残念ですが、Travisiidae は強烈な腐卵臭のような、化学物質のような、得も言われぬ悪臭を漂わせます。
Travisia sanrikuensis(赤の四角)と環形動物のCOI遺伝子の塩基配列(DNAを構成するA, T, G, Cの順番)を並べた図です。
この種のCOI遺伝子には他の種が持たない特殊な塩基配列(他の種ではハイフンになっている部分)を持つことが分かりました。この塩基配列の特徴を調べた結果、普通の動物は持っていないミトコンドリア遺伝子のグループIIイントロンと判断されました。
↓紹介した論文です(無料で読めます)。
- Kobayashi, G., Itoh, H., Kojima, S. Mitogenome of a stink worm (Annelida: Travisiidae) includes degenerate group II intron that is also found in five congeneric species. Scientific Reports 12, 4449, 2022a.
- Kobayashi, G., Itoh, H., Nakajima, N. First mitochondrial genomes of Capitellidae and Opheliidae (Annelida) and their phylogenetic placement. Mitochondrial DNA Part B, 7, 577-579, 2022b
環形動物や航海調査など、気になることがあればいつでも聞いて下さい!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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