2023年3月28日火曜日

ヤマトオサガニの遺伝的集団構造を初めて明らかに 国際的学術誌に掲載


小林元樹研究員、阿部博和准教授(海洋ベントス学研究室)、および国立環境研究所、東京大学の研究者らによる共同研究の成果が「Plankton and Benthos Research」に掲載されました。

共同研究グループは、青森県の陸奥湾の干潟に住むヤマトオサガニが湾以外の地域と遺伝的に隔離されていることを発見(陸奥湾 [むつわん] は、津軽半島と下北半島に囲まれたあの大きな湾ですね)。

 

この研究から、ヤマトオサガニは宮城から九州の広い地域で遺伝的なつながり(個体の行き来)があることが推測されましたが、本種の分布北限である陸奥湾は、ほかの地域と遺伝的に異なっていることが分かりました。

遺伝的な「つながり」
陸奥湾のヤマトオサガニの遺伝的な偏りを示しています

 

陸奥湾のヤマトオサガニは独自の遺伝的な特性を持っている可能性があり、本種の遺伝的多様性(同じ種類の中の遺伝子の多様性)を保つ上で重要な可能性があると考えられました。

 

 

発表者

  • 小林 元樹(石巻専修大学 共創研究センター特別研究員)
  • 伊藤 萌 (国立環境研究所 特別研究員)
  • 金谷 弦 (国立環境研究所 主幹研究員)
  • 阿部 博和(石巻専修大学理工学部生物科学科 准教授)
  • 小島 茂明(東京大学大学院新領域創成科学研究科・東京大学大気海洋研究所 教授)

 

ヤマトオサガニの食事風景

干潟時に泥の中から出てきて食事します

 

 

 

小林元樹研究員のコメント

陸上の動物は基本的に歩いて移動するため、集団(同じ種の個体の集まり)間の遺伝的なつながりの程度は、いくらか予想できるかと思います。

その一方で、海底にすむ動物の親は、歩いて遠くまで移動することはほとんどありませんが、海中を漂うプランクトン幼生期に、海流を使って遠くまで移動できる場合があります。

そのため、遠くの地域でも遺伝的に似ている一方で、近くの地域でも遺伝的に異なるなど、単純に地理的な距離からは遺伝的なつながりをまったく予想できない場合が多くあります。

これが海底にすむ動物の遺伝的多様性を研究する上で面白いポイントだと思います。

 

最近、今回のヤマトオサガニも含めていくつかの干潟のカニ類が分布域を広げている例が報告されています。

気候変動や環境変動に伴う分布域の変化が、目には見えない遺伝的多様性に与える影響を明らかにするために、今回のような研究は大事だと思います。

これからも、潮間帯から深海まで、いろいろな海洋生物の遺伝的多様性について解明していきたいと考えています。 

 

 

 

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