2024年6月5日水曜日

大学周辺に生息するハクビシンの暮らし

 

生物科学科の下山海月さん(R4年度卒業)は、在学中に大学周辺に生息するハクビシン*の食性について調べました。

キャンパス周辺に落ちている糞を集めて内容物を分析するとともに、大学周辺の食物(果実・昆虫)の量の月変化を評価して、食べ物の内容物との関連性を検討しました。

ハクビシンの糞の内容物を分析する下山さん


石巻のハクビシンは果物を一年中利用したものの、その割合は昆虫が利用できない冬期に高くなりました。

果実と昆虫を中心とした食物構成は、原産地である東南アジアのハクビシンの食性と似ていましたが、四季の変化に柔軟に対応できたことが、外来種*である彼らが日本に定着・分布拡大できた理由だと考えられます。

 
大学キャンパスで見つけたハクビシンのため糞

ひとつひとつの糞が長く、また乱雑にばらまかれている点が
タヌキのため糞と異なります。
キャンパス内には、このようなため糞場がいくつかあります。


大学演習林にセットしたカメラがとらえたハクビシン

歩行時の高さがタヌキよりも低く、尾が長いので判別できます。
夕方になると、キャンパス内でもよく見かけます。



タヌキ、アナグマ、ハクビシン、そしてアライグマは互いに似ているので、よく間違われます。生物科学科の皆さんは、識別大丈夫かな?

 

タヌキとアナグマの違い

上がタヌキ(イヌ科)、下がニホンアナグマ(イタチ科)の写真です。

タヌキの毛は暗灰色で、肩の部分が白いのが特徴です。いっぽうアナグマの毛は褐色で、目の周りがパンダのように黒いのが特徴です。

タヌキが足をぴんと伸ばして走行するのに対し、アナグマは地面を這うような動きをする、という違いがあるので、映像を確認すれば違いは一目瞭然。

 

 

下山さんの研究成果は、国際誌に掲載

  • Shimoyama M., Tsuji Y. (2024) Food habits of invasive masked palm civets (Paguma larvata) in northern Japan. Mammalia.

手法としてはオーソドックスでありながら、本種の原産地以外で食性と資源量を同時に評価した事例はこれまでになく、査読者から学術的な価値を高く評価されました。

たとえ1年間の卒業研究でも、コツコツとデータを蓄積すれば学問の世界に貢献できるのです。後輩たちにも、きっと刺激になることでしょう。




日本にやってきたハクビシン

ハクビシンは、ジャコウネコの仲間です。

東南アジア原産の肉食獣で、戦時中に毛皮をとる目的で台湾から日本に持ち込まれました。鼻筋に通った白い線から「白鼻芯」の名があります。戦後、飼育施設から逃げ出した個体が定着し、その後全国に分布を拡大したといわれています。

果実を中心に農作物を食い荒らすほか、家屋に侵入して糞や尿をまき散らし、天井のシミ汚れや異臭、ダニの発生など人への健康被害をもたらします。被害は都市部で拡大しているようです。ハクビシンの被害を防止するため、全国で有害鳥獣捕獲が行われています。

ただ、本来熱帯産の動物であるハクビシンが、わが国の森林でどのような生活をしているのか ―とくに日本の厳しい冬にいかに適応しているのか― については、情報が乏しいのが現状です。

ハクビシン(動物園で撮影した個体です)



外来種とは?

本来の生息地から離れた場所に定着した生物のことを、外来種 (alien species) といいます。 

外来種の中でもとくに繁殖力の高い種(侵略的外来種:invasive alien species)は在来の生物と食物を巡って競争したり、病気を移したり、ヒトに危害を加えたり、といった問題を起こします。

在来種との交雑による遺伝子汚染も、深刻な問題です。環境省は、特に問題のある侵略的外来種を「特定外来生物」に指定し、飼育・栽培・保管・輸入を規制するとともに、駆除をすすめています。身近な生き物では、アメリカザリガニ・ブラックバス、(最近話題になった)ヒアリの仲間 などが該当します。

 


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