2024年6月18日火曜日

採択率22%の狭き門を2名が突破 ベントス研の大学院生が笹川科学研究助成の助成対象者に選ばれました

 

海洋ベントス学研究室に所属する大学院修士課程1年の大見川 遥さんと小田 晴翔さんが、「2024年度笹川科学研究助成」の助成対象者に選ばれました。

笹川科学研究助成 は、公益財団法人日本科学協会が実施する若手の研究を支援する研究助成制度で、大学院生が応募できる数少ない研究助成でもあります。

今回の申請件数は全体で1,395件、採択率は22%。大見川さんと小田さんは研究計画を練り上げて申請書類を作成し、狭き門を突破しました。

2024年度笹川科学研究助成の
助成者研究一覧に掲載された2人の名前
 

本学では研究助成に申請する学生はあまり多くありませんので、研究助成に応募した経緯について紹介します。

  • 2023年1月 研究室に配属(通常の研究室配属は9月。コース教員の入れ替わりのため研究室配属時期を延期)
  • 2023年3月 大見川さんが谷津干潟(千葉県)の調査に参加し、大学院進学を決意
  • 2023年4月 卒業研究のテーマが決定
  • 2023年5月 小田さんが就職を希望していた水族館の最終面接に進むものの不採用となり、大学院進学を決意
  • 2023年7月 大見川さんと小田さんが大学院修士課程の学内推薦入学試験を受験し合格
  • ~2023年8月 フィールド調査やイベントに積極的に参加し、研究に対する興味を深めていく
  • 2023年9月 笹川科学研究助成の申請受付開始
  • 2023年9~10月 ベントス学会、動物学会、甲殻類学会に参加し、研究に対するのモチベーションが大きく向上。大学院で活発な研究活動を実施するために研究助成の申請を決断。
  • 2023年10月 1ヶ月かけて笹川科学研究助成の申請書を作成し、提出
  • 2023年11月 生態学会東北地区大会でポスター発表
  • ~2024年2月 卒業研究を実施
  • 2024年3月 笹川科学研究助成の内定決定、採択に向けて諸手続き
  • 2024年4月 笹川科学研究助成の採択決定、大学院進学


2023年4月 仙台市の蒲生干潟で研究室に配属されてから初めての干潟調査
イソシジミやハマグリなどの二枚貝がたくさん採れて大興奮

2023年5月 南三陸高校 自然科学部との合同で
志津川湾の松原干潟の調査を実施。
ベントスの同定作業中の様子

2023年7月 南三陸子ども自然史ワークショップに
サポートスタッフとして参加

2023年8月 岩手県陸前高田市の高田松原で行われたカニ観察会に参加し、
スナガニを掘る大見川さん(手前)と小田さん(奥)


 

採択された研究課題の内容も簡単にご紹介します。

 

大見川 遥さんの研究課題「海のダンゴムシはなぜ丸くなるのか?」

海岸で等脚類を探す大見川さん

研究対象とするコツブムシ類3種

ダンゴムシが丸くなるのは有名ですが、一体何のために丸くなるのでしょうか?

「防御のため」と説明されることが多いですが、どんな捕食者に対してどれくらい効果があるのか、実はこれまで検証されたことはありません。また、同じような場所に生息するワラジムシは丸くなりませんが、そうするとなぜダンゴムシだけが丸くなるのか、その進化を駆動した要因が一体何なのか、疑問が生じます。

実は海にもダンゴムシにそっくりで丸くなる特徴を持つコツブムシという生物がいます。コツブムシとダンゴムシ・ワラジムシは節足動物門の等脚類(等脚目)というグループに含まれる生物ですが、コツブムシとダンゴムシ・ワラジムシは等脚類の中で異なるグループに属しています。つまり、丸くなるという特徴は海と陸で別々に獲得された特徴といえます。

球体化するコツブムシ類

球体化するハマダンゴムシ

大見川さんは、等脚類で生じた「丸くなる」という特徴が、ハサミ型の武器を持つ捕食者に対する防御手段として有効に働くことで進化したのではないかと仮説を立て、実験的に検証しようとしています。

 

 




小田 晴翔さんの研究課題「すね毛×脚タップ=クロベンケイガニ:形態から考える社会行動の進化」


クロベンケイガニの飼育観察システムを作成中の小田さん

クロベンケイガニは石巻専修大学のキャンパス内にもたくさん生息している半陸生のカニ類で、立派な「すね毛」を持つのが大きな特徴です。ここまで「すね毛」が発達しているのは半陸生のカニ類の中でも珍しく、なぜ?という疑問が浮かびます。

この疑問に対するヒントを得るために先行研究を探していたところ、日本国内で半陸生カニ類の社会行動を観察して、様々な種類の行動の回数を記録している論文を見つけました。その論文では、調べていたカニ類の中でクロベンケイガニだけがleg-tapping(「脚タップ」)という行動を行い、さらに、クロベンケイガニの社会行動のなかで「脚タップ」の頻度が圧倒的に高いことが報告されていました。

採集された大量のクロベンケイガニ

クロベンケイガニの「すね毛」

小田さんは、この「すね毛」と「脚タップ」には何か関連があるのではないかと着想し、形態計測と行動観察の組み合わせによって「脚タップ」の意義と「すね毛」との関連性について検討を進めようとしています。

キャンパス周辺でクロベンケイガニを探す小田さんと大見川さん

 

 

大見川 遥さんと小田 晴翔さんは、4月19日にANAインターコンチネンタルホテル東京で開催された「2024年度笹川科学研究助成 研究奨励の会」に参加しました。



 採択決定の喜びを等脚類(球体化)とカニのポーズで表現しています。



 

 



指導教員:阿部博和准教授のコメント

 

大見川さんは高校時代、海洋生物の研究がしたいという強い想いで片道2時間かけて水産高校に通学するといった気合の入りようで、高校生の頃から学会で発表を行うほか、全国水産・海洋高等学校生徒研究発表大会では東北大会を勝ち抜き、全国2位の成績を収めています。

大学入学後は、フィールド実習などを通して海産等脚類に興味を持ち、早い段階で研究に対する熱意を表明していました。研究室に配属されてから文献の収集と情報の整理を進めていく中で、研究のデザインに対する考え方を身に着けていき、もともとはヒメスナホリムシという等脚類を研究したいという強い希望を持っていましたが、研究テーマを等脚類全般を視野に入れたものにシフトさせていきました。

大見川さんの純粋な好奇心から生まれる原動力はパワフルなもので、柔軟な思考と臨機応変に対応する姿勢にも目を見張るものがあります。研究を志す者の資質はすでに十分に持ち合わせていると思いますので、今後の活躍に期待しています。

 

小田さんは、大学入学当初から水族館の飼育員を目指し、就職活動も早い段階から大変頑張っていましたが、あと一歩のところで夢に届かず、辛く悔しい思いをしたことと思います。しかしながら、その後の気持ちの切り替えと前向きな方向転換は見事なもので、研究室に配属されてから心の奥底で静かに燃え上がっていた研究に対する熱意と向き合い、より上を目指したいと大学院に進学することを決意しました。

研究室に配属されてからの小田さんは、研究室のフィールド調査にも積極的に参加して甲殻類に強い興味を抱くようになり、採集してきた甲殻類の種同定を独学で進めるなど、その成長には目を見張るものがありました。

自ら進んで研究に取り組む姿が印象的な学生で、「興味を持ったことはとことん追求する」という小田さんの性格は、今後の研究活動にとっても大きな原動力になると思います。この研究助成の採択でより一層の弾みをつけて、ますます上を目指してくれることを期待したいと思います。



 

 

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