2024年5月21日火曜日

【ウミウシ】大学院生の論文が雑誌に掲載されました 宮城県初記録のベントスの報告 その1


大学院生の論文2本が、みちのくベントス研究所が発行する雑誌「みちのくベントス」に掲載されました。 


みちのくベントス第8号は、
株式会社エコリスのWebサイト から閲覧できます

  • 小林真緒・佐藤宏樹・阿部博和(2024)宮城県における後鰓類4種(軟体動物門:腹足綱)の記録.みちのくベントス (8): 52–60.

  • 小田晴翔・畠山紘一・阿部拓三・鈴木将太・赤池貴大・阿部博和(2024)宮城県と岩手県から得られた標本および写真に基づく北限記録のウシエビとクマエビ.みちのくベントス (8): 61–69.



今回は、1つ目の「宮城県における後鰓類4種(軟体動物門:腹足綱)の記録」の論文について紹介


後鰓類(こうさいるい)とはいわゆるウミウシ類のことで、ウミウシ類は貝殻が退化した巻貝の仲間です。

ウミウシ類は「海の宝石」とも呼ばれ、色や形は実にさまざま。美しい色彩や模様をもつ種も多く、人気があります。


海洋ベントス学研究室所属の大学院生 小林真緒さんは、2023年11月から2024年2月にかけて宮城県石巻市の雄勝湾で調査を行ったところ、これまで宮城県から記録されたことの無い以下の3種の後鰓類を発見しました。

ジャノメアメフラシ

ゾウアメフラシ

クモガタウミウシ
 

その後、これらの種の同定や過去の採集記録の文献調査について相談していた共著者の佐藤宏樹さん(東京大学大気海洋研究所の大学院生)から、同じ場所で2023年12月にカメノコフシエラガイを採集したという報告がありました。

カメノコフシエラガイ
 

さらに、本学科の海洋浮遊生物学研究室所属の大学院生 畠山紘一さんから、2023年12月に宮城県気仙沼市の唐桑町でジャノメアメフラシが発見されたという情報が寄せられました。



小林真緒さんは、これらの標本に基づく記録と写真記録の情報をまとめ、論文として報告することで、4種を宮城県から初めて正式に記録するとともに、クモガタウミウシの北限記録を宮城県の雄勝湾に更新しました。

干潟調査中の小林真緒さん

また、ジャノメアメフラシとカメノコフシエラガイは秋田県の男鹿半島、ゾウアメフラシは青森県の陸奥湾が分布の北限となりますが、気仙沼市唐桑町からのジャノメアメフラシの記録と雄勝湾からのゾウアメフラシとカメノコフシエラガイの記録は、それぞれの種の太平洋側における北限記録を更新するものとなりました。

夜の漁港で生き物を探す

今回宮城県から記録された4種のウミウシ類は、これまでも宮城県に生息していながらも見つかっていなかった可能性もありますが、近年の海水温上昇により太平洋側で分布が北上してきた可能性も考えられます。

生物の分布や地域の生物相の変化を把握するためには、地道なモニタリング調査が不可欠です。


 
 
小林真緒さんのコメント
私の卒業研究のテーマは干潟に生息する環形動物の分類についてでしたが、生き物を探すのが趣味で、潮が良く引く日には夜な夜な海へ通うという日々を過ごしていました。その際に、雄勝町の漁港で見慣れない後鰓類4種を発見し、今回論文を書くに至りました。
卒業研究で調査を行っていた干潟とはハビタットが異なり、分類群も専門としていた環形動物とは異なる軟体動物であったため、過去の記録を調べたり、種同定の根拠となる特徴を記述することはとても骨が折れる作業でした。また、論文執筆は物凄く根気がいる作業で、初めてだったこともあり諦めかけてしまったこともありましたが、共著者の方々に助けて頂きながら完成させることが出来ました。
論文を書き始めてみると、文章を書く上で自分が苦手としている部分が顕著に表れてしまい、難しさを感じましたが、推敲を重ねる過程で少しずつ改善できるようになってきました。研究者というのは、ただ生き物が好きという気持ちだけでは到底務まるものではなく、文章を書く力は大前提、情報収集力や情報を取捨選択して整理する力なども必要になるということを改めて実感しました。
現在も雄勝町には定期的に足を運んでおり、これからも通い続けます。更なる北限種の発見と、レベルアップした論文が書けるように頑張ります!これからもベントス研の活動を見守っていただけると嬉しいです!



 

指導教員 阿部博和准教授のコメント
小林さんは見た目によらず生物を採集する力が非常に高く、野外調査では頻繁に珍しい生物を見つけてくるのでいつも驚かされています。その採集能力の高さは、色々な生物を見てみたいという、純粋な「生き物が好き」という気持ちの表れのようであり、その情熱には感心させられています。
今回の発見も、卒業研究と並行して行っていた半ば自主的な調査の成果であり、趣味の延長線上ではありつつも、正確な種同定のための形態の確認や、過去の記録についての文献調査などに取り組むことで「研究」のレベルに昇華させ、論文執筆という苦難を乗り越えて学術的に貴重な記録を残したことは賞賛に値すると思います。
生物科学科には生き物大好きな学生が多いと思いますので、このような「好き」という気持ちから始まる主体的な活動や学習がより活発になればよいなと思っています。小林さんはそのお手本を示してくれたと言えるかもしれません。





 

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