
海洋ベントス学研究室の大学院修士1年の大見川 遥と小田 晴翔です。
私たちは、10/28~30にタイ王国のバンコクで開催された「The 5th Asian Marine Biology Symposium」(AMBS)と、11/29~12/1に函館で開催された「日本甲殻類学会第62回大会」に参加し発表を行ってきました。
とても楽しく学びある経験ができたので、ご報告いたします。
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タイに向かう道中、成田空港にて |
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甲殻類学会の受付前にて |
Asian Marine Biology Symposium 編
AMBSはアジア諸国の海洋および沿岸域の生物学的研究を行っている研究者の交流や情報交換の促進のために、2013年から定期的に開催されています。
新型コロナウイルスの影響で、ここ数年開催が見送られてきましたが、今回は5年ぶりの開催となりました。
タイ王国への道のり
私たちは今回、日本を飛び出して国際学会での発表に初めてチャレンジしてみました。発表の申し込みやホテルの予約、発表ポスターの作成などは、もちろん全て英語で行う必要がありました。今までの人生で一番英語に悩まされ、真剣に取り組んだ時間になったと思います。英語での作業は困難を極めるものでしたが、それ以上に私たちの心はワクワクで埋め尽くされていました。
準備は万端!いざタイ王国へ!と意気込んで空港へ向かったのは良いものの、2時間の出発時間の遅れ。それにより乗り継ぎ予定だった便に置いて行かれてしまい、中国の上海空港で2時間のティータイム。いきなり海外渡航の洗礼を受けることになりました。そんなこんなでタイ王国へは深夜の1時過ぎに到着。海外渡航の定番の割高なぼったくりタクシーの洗礼を受けながらホテルへと向かいました。
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タイ・バンコクのスワンナプーム国際空港に到着 |
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国際学会の会場となったThe Emerald Hotel |
学会本場!ポスター発表!
学会では、日本では見ることができない生物たちを扱った研究が多く、色鮮やかな生き物たちの写真をぱっと見ただけでも魅力が伝わってきました。
今回の学会では生態学や分類学、行動学の研究発表に加え、生物を取り巻く環境にフォーカスした研究発表がいくつかありました。国内の学会では、生態学や行動学についての研究発表を見る機会が多かったので、環境をメインにした発表は新鮮な気持ちで聞くことが出来ました。
そして、英語での口頭発表を聞いている中で、知っている単語が出てきたり、何を言っているのかを聞き取れたりした時に、すごくうれしい気持ちになり、一人でにやけていました。
いよいよ、私たちのポスター発表の出番です。
ポスター発表は口頭発表が一通り終わった午後に行われました。自分の英語で作られたポスターの前に立った時、日本で悠々自適に生活してきた私に英語での発表ができるのか、という不安が一瞬よぎりました。が、そんな気持ちも束の間で、ポスター発表を聞きに来てくれた方と目が合った瞬間に、自分の研究を知ってもらいたい、伝えたい、という思いが爆発し、不安が吹き飛んでいきました。
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発表中の大見川 |
それからは、拙い英語ながら身振り手振りを用いて全力で発表することが出来ました。発表を見に来てくれた方から「So interesting!」という言葉を頂き、本当に嬉しく感じ、もっと研究活動を頑張ろうとモチベーションにもつながりました。
ポスター発表自体は1時間半と長くはありませんでしたが、密度濃い時間を過ごすことが出来ました。これからもチャンスがあれば英語で発表したいです。
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発表中の小田 |
懇親会は大宴会
学会というものには、研究者間の交流の輪を広げる目的もあるため、懇親会が行われます。それはAMBSも例に漏れず、28日と29日の夜に懇親会が行われました。
「学会の懇親会」と聞くと堅苦しいイメージが思い浮かぶかもしれませんが、まったくそんなことはありませんでした。至る所で笑い声が聞こえてきて、国籍なんて無かったかのように感じるほど、楽しい時間を過ごせました。皆がグラスのお酒を空にした頃、踊り子たちが会場に突如として現れ、タイの伝統舞踊をご披露してくれました。流れるような美しい踊りに魅了され、お酒がより一層進みました。
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タイ伝統舞踊の踊り子の方々と一緒に記念撮影 |
酔いが回ってくる時間になると、懇親会場はカラオケ会場へと変貌を遂げました。私たちもドラゴンボールやワンピースの主題歌を歌い、会場は大盛り上がり。アニメソングは海外でも知名度が高いようです。
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懇親会のカラオケ大会で人気アニメソングを熱唱 |
AMBSを経て
英語という壁は日本人にとっては、とても大きな壁に感じられるかもしれません。私たちも、英語にはネガティブな印象を抱いていました。しかし、いざ飛び込んでみれば、そんなことはないと気付かされました。こういったことは、英語に限った話ではないと思います。何かをしたいのに「気持ちの壁」のせいで、躊躇ってしまうことは多いと思います。ですが、一度その考えを捨てて、やりたいことに思い切ってチャレンジしてみてください。私たちは、そのチャレンジすることの大切さを、今回のAMBSで学ぶことが出来ました。
「恐れることはない!前に進め!」の精神を持って、これからも研究を続けていきます。次回は2027年に熊本で行われる予定です。より一層英語力を磨いて、また発表したいと思っています。
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国際学会のエクスカーションで訪れた エメラルド寺院(ワット・プラ・ケオ)にて |
【私たちのポスター発表内容】
大見川 遥 「Evaluation of the predation avoidance function of the conglobation behavior of the marine isopod Gnorimosphaeroma spp.(海産等脚類イソコツブムシ類の球体化行動による捕食回避機能の評価)」
ダンゴムシが丸くなることは有名ですが、海にもダンゴムシのように丸くなるコツブムシ(ダンゴムシと同じ等脚類の仲間)という生き物がいます。どうして等脚類には球体化するという進化を遂げたものがいるのかについては、未だに根拠のある説明がなされていません。
そこで、私は等脚類の球体化行動の進化の謎を解明するため、コツブムシの球体化機能について研究を行いました。その結果、コツブムシの球体化にはカニ類から食べられにくくなる機能があることが明らかになりました。
小田 晴翔 「Sexual dimorphism in the bristles on the walking legs of the semi-terrestrial sesarmid crab Orisarma dehaani(クロベンケイガニの歩脚の剛毛の性的二型)」
今回、クロベンケイガニの歩脚の剛毛に性的二型が見られたという内容でポスター発表を行ってきました。性的二型とはオスとメスの形態的な違いのことです。性的二型が見られたということは、歩脚の剛毛には繁殖に関わる何かしらの意味があるということが推測できます。この点について海外の様々な参加者と議論を交わしてきました。
日本甲殻類学会は甲殻類学の進歩と普及を図ることを目的とし、1961年から開催され、甲殻類研究者の交流や情報交換の場になっています。
今回、海洋ベントス学研究室からは私たち2名と4年生2名が参加し、私たちは以下の題でポスター発表を行いました。
【私たちのポスター発表内容】
大見川 遥 「海産等脚類の球体化は捕食回避機能として働くのか? ~イソコツブムシ類とニセスナホリムシの比較実験~」
甲殻類学会では、イソコツブムシ類に加えて、球体化できない海産等脚類のニセスナホリムシで実験を行った結果を含めて発表を行いました。球体化できるイソコツブムシ類と比較して、球体化できないニセスナホリムシはカニ類に食べられやすいことを明らかにしました。
小田 晴翔 「宮城県舞根湾で採集された北限記録の十脚目甲殻類の報告」
「北限記録」とは現在報告されている分布記録の中で最北の記録のことです。近年、東北地方における海水温の上昇が顕著であり、その影響によって南方系の海洋生物の分布北上が問題視されています。普段から採集調査を行っている気仙沼市の舞根湾でも南方系の十脚類(エビ・カニ・ヤドカリ類)が見つかったため今回の報告に至りました。今回の発表で6種の十脚類の北限記録が更新されました。
私たちは昨年度も甲殻類学会に参加したので今回が2度目の参加でした。
学部4年生の2名は今回が初参加でしたので、甲殻類学会に参加して感じたことについてコメントをもらいました。
相澤 和瑛 さん今回甲殻類学会に参加してみて、非常に多くの研究内容を拝見させていただきました。ヤドカリの行動についての研究など非常に面白い視点での研究が多く、有意義な時間を過ごさせていただきました。1種の生物でも様々な視点、仮説をもって研究していくことでまた違った内容の研究となることを知り、現在行っている卒業研究でも幅広い視点から考えていくことが重要であると感じました。
遠藤 祐人 さん
甲殻類と聞くとエビ・カニのイメージが強かったのですが、等脚類やヨコエビ、フジツボの研究も多く新鮮でした。また、学会というと堅い印象がありましたが、雰囲気がとてもフランクで初参加の私たちも溶け込みやすい雰囲気の学会でした。自分の卒業研究の参考になる研究を聞けたり、モチベーションにもつながったりと大変良い機会に恵まれたと感じています。この学会で広がった知識や視野を今後の活動にも活かしたいと思います。
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甲殻類学会に参加した4名の学生 左から遠藤祐人さん、大見川遥さん、小田晴翔さん、相澤和瑛さん |
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他大学の学生たちと親睦を深めました |
最後に、Asian Marine Biology Symposiumと甲殻類学会に参加して感じたことについてコメントを述べさせていただきます。
大見川 遥AMBSは初めての国際学会だったので、期待と緊張が入り混じる大変なものになると思っていました。しかし、実際にタイの地を踏みしめてみると、緊張はどこへやら、期待と興奮でいつもより2倍動いていた気がします。また、タイの料理は基本的に辛いものが多く、初日に食べたスパイシーチキンにより、唇が2倍膨れ上がったのはいい思い出です。海外には少し怖いイメージを抱いていましたが、今回の旅を通して、それが間違いであったことを認識しました。
甲殻類学会では、論文執筆にあたり、研究結果の示し方や解析方法、解釈について甲殻類研究者の方々に相談するつもりで発表を行いました。結果として、多くの甲殻類研究者の方々からご助言をいただくことが出来ました。偉大な甲殻類研究の先輩方からのご助言をもとに、論文執筆を頑張りたいと思っています。その他にも、同年代の甲殻類研究仲間との交流を深めることができて、大満足の函館旅でした。
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海外の学生の参加者に名刺を渡すことにチャレンジ |
今回AMBSと甲殻類学会に参加してみて、本当に良かったと思います。これからもチャレンジ精神の名の下に、さまざまなことに2倍チャレンジしていきます。みなさんもぜひ、いろんなことにチャレンジしてみてください!
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ルンピニ公園の有名な住人、ミズオオトカゲの しっぽに触れることにチャレンジ |
小田 晴翔AMBSでは英語での発表に若干の不安がありましたが、いざ発表が始まると不安は楽しさへと変化し、拙い英語でも情熱でコミュニケーションをとることができました。今回の発表では、多くの海外の参加者からも様々な意見やアドバイスを頂くことができ、研究成果を海外に向けて発信していくことの重要性を強く感じました。学会後は仲良くなった参加者とタイ観光に行き、ムカデなどの昆虫食や淡水エビの躍り食いなど、日本ではなかなかできない体験ができました。ナイトマーケットでは珍しい甲殻類が所狭しと並べられており、大変感激しました!このような貴重な経験ができるのは国際学会の醍醐味だと思います。
甲殻類学会では、論文や書籍で何度も名前を見かけるような大御所研究者の方々と研究や甲殻類の情報について意見交換を行うことができました。2度目の参加でしたが、ベントス研のSNS( HP X Instagram)の宣伝効果もあって様々な参加者の方に認知して頂いており、前回参加した時よりも多くの方々とお話をしたりアドバイスを頂いたりすることができました。同世代の若手参加者とは、同じ甲殻類を研究する者として結束を強めてきました。
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シーフードレストラン前に設置された生簀 様々な甲殻類がびっしり |
雰囲気も内容も異なる2つの学会でしたが、学会も学会以外の交流も楽しむことができ、毎度のことながらモチベーションが爆上がりでした!特にAMBSは初めての海外でしたが、タイの独特な文化にもすぐに慣れ、思い残すことがないくらい満喫することができました。学会参加後にはこれまでと世界が違って見え、考え方も変わりました。視野が広がることで研究や就職への考え方にも大きな影響を受けるので、これを見ている皆さんもぜひ1度は参加してみることをオススメします!何よりめちゃくちゃ楽しいですよ!!
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ナイトマーケットでムカデの素揚げを賞味 |
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