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2025年11月25日火曜日

卒業生が糞虫類によるタネの二次散布機能を解明! サル・糞虫・植物がつなぐ生命のバトン

「サルと糞虫の二次散布と生態学」より
(成田あむ)

生物科学科の卒業生で、現在、本学理工学部の助手を務めている成田歩さんの論文が、国際学術誌 Acta Oecologica 2025101日付でオンライン公開されました。

サルのフンに集まってきた糞虫類


掲載サイトはこちら

Ayumu Narita, Tsubasa Yamaguchi, Maisa Sekizawa, Yamato Tsuji (2025) Evaluation of secondary seed dispersal by dung beetles in a temperate region. Acta Oecologica 129: 10412

筆頭著者の成田歩さん(2024. 2. 24
 

 

論文の概要

糞食性の甲虫(糞虫類)は、動物のフンが排泄されるとその匂いを嗅ぎつけて集まってきます。

彼らはフンを食料にするために、穴を掘って埋めます。糞虫類の活動で、フンがすみやかに処理されるので、不快なにおいが長時間漂うことはありません。糞虫類には「自然界の分解者」としての役割があるのです。


多くの動物は果実を好んで食べます。採食の際、果肉と同時にタネも飲み込み、移動先でフンとともに排泄します(飲み込み型の種子散布)。植物にとって、動物は自分のタネを離れた場所に運んでくれる、ありがたい存在です。

ニホンザルが採食する多様な果実
 

成田さんは、糞虫類がフンを埋めるとき、フンの中にあるタネも一緒に埋めることにより、一次散布者である動物とともに植物の生育に貢献しているのではないか、と考えました。

この点を明らかにするため、宮城県石巻市金華山島のニホンザル (Macaca fuscata) の糞に集まる糞虫類を対象に、タネの埋め込み能力を評価することにしました。

ニホンザル (Macaca fuscata

2022年10月から23年9月にかけて、サルのフンに含まれるタネを分析するとともに、落とし穴トラップで糞虫類を捕獲して各月の活動性を評価しました。さらに、野外・室内実験により糞虫類がフンをどれだけの深さに埋めるのかも評価しました。

ニホンザルのフンと、フンから出てきたタネ 

実験の結果、センチコガネ類 (Phelotrupes spp.) やゴホンダイコクコガネ (Copris acutidens) といった大型の糞虫類は、タネを0.5~5cmの深さに埋めていることが分かりました。

室内実験で評価した、糞虫類によるタネの埋め込みの深さ
多くの月で、0.5-5 cmの埋め込みの割合が高い


埋められることで、タネは捕食者(げっ歯類、ニホンジカ)や地表面の乾燥などを避けることができ、発芽直後の生育に好適な条件を獲得できます。ゆえに、金華山の大型糞虫類は、サルによって運ばれたタネの二次的な散布に貢献していると考えられます。

室内実験用の装置


従来の種子散布研究では、一次散布者である果実食者の機能に注目が集まっていましたが、本研究は、温帯地域における種子散布において、糞虫類も深く関与していることを明らかにしました。今後、他地域でのデータの蓄積が望まれます。

 金華山島で捕獲された糞虫類の個体数
春から夏にかけてはセンチコガネ類とエンマコガネ類が、
秋はダイコクコガネの捕獲個体数が多い


オオセンチコガネ(2025)
イラスト:成田歩さん



成田歩さんのコメント
私はかつてから生物多様性や動物生態学(ある動物とその他の生物または環境とのかかわり・つながり)に強い関心を持っていました。

中でもサルの仲間が大好きで、所属研究室が決まる三年生の夏頃、「金華山でニホンザルに関する生態学的な研究がしたい!」と辻先生に相談したところ、「それなら、サルの糞を食べる糞虫の研究してみたら?」との提案を受けました。

「"フンチュウ"って……フンコロガシとかですか?」そんな糞虫についての知識がほとんどゼロの状態で私の卒業研究はスタートしましたが、図鑑や論文を読み、彼らのことを知れば知るほど「糞虫×サル×植物」の関係性に夢中になり、自分の研究テーマが一番面白い!とまで思うようになりました。

そんな私の研究が、今回国際誌に掲載され、種子散布研究の発展にささやかな貢献をしたことにこと大きな喜びを感じています。
イラストレーター「成田あむ」としても活躍!
石巻かほくの「いしのまき動物記」のイラストを担当中
 
 
 サルと糞虫の二次散布と生態学
 
 ミヤマダイコクコガネ発見小話